新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応へのモニタリング方法の提案

Saeki, S., Nakatani, D., Tabata, C., Yamasaki, K. & Nakata, K. Serial Monitoring of Case Fatality Rate to Evaluate Comprehensive Strategies against COVID-19. Journal of Epidemiology and Global Health in Press, doi:10.2991/jegh.k.210526.002 (2021)

Download: PDF, RIS, BIB, ENW

研究成果のポイント

  • COVID-19の社会的影響を解釈する方法として、経時的な致死率のモニタリングを提案。
  • COVID-19の致死率を週単位で測定することにより、2020年の第3次流行に日本がどれほど順応したのかが明らかに。
  • 既存の測定基準に致死率の連続モニタリングを加えることで、COVID-19の感染状況を総合的に把握できる可能性が。

概要

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応するため各国は様々な政策を導入したが、これらの有効性をどのように評価するかについては議論が尽きない。そこで我々は経時的に致死率を測定することがその評価に活用できるのではないかと考案しました。具体的には、週単位の致死率を測定することが最も迅速に感染のトレンドを反映できると考えています。日本のデータを解析すると、日単位の致死率は短期間での大胆な変動が見られるものの、週単位および月単位の致死率は比較的類似した傾向を示すことがわかりました(図1)。

https://www.atlantis-press.com/assets/articles/JEGH-21-0026/JEGH-21-0026-g001.png

したがって、COVID-19への対応策をCOVID-19のような急性のパンデミックにおいて迅速に評価するためには、週単位の致死率を用いることがより有用であると考えられます。

日本の週単位の致死率を見ると、2020年のCOVID-19による影響は4月から5月頃に最も大きかったことが示唆されます。7月からは陽性例が増加したのに比べて、週単位の致死率には大きな変動は見られませんでした。しかし、これは日本の医療機関が危機に瀕していなかったことを意味するものではなく、医療従事者らが困難を乗り越えるための術を身に着けつつあったということではないかと考えています。

このように、致死率を活用するにはいくつかの限界も念頭に置くべきではありますが、社会がパンデミックにどのように対処したかを追跡するためには各国が経時的に致死率をモニタリングすべきだと考えます。

背景

COVID-19への対策は、国ごとで大きく異なりました。法的措置を通じて積極的なロックダウンを行った国もあれば、公衆衛生上の対策をあまり取らない国も当初は見られました。世界がCOVID-19に巻き込まれる中、世界保健機関(WHO)は各国の陽性数と死亡数を迅速に報告するダッシュボードを公式ウェブサイト上に作成しました。しかし、どのような情報を活用して各国が実施した対策の効果を評価するかについての定石は存在しませんでした。

各国におけるCOVID-19の影響を評価するための研究は数多く実施されてきましたが、それらは複雑なアルゴリズムや独自の検査結果を必要とするものがほとんどでした。政策への迅速なフィードバックは、パンデミックの最も過酷なタイミングでこそ重要となりますが、煩雑な計算のために必要とされるデータを取得するための余裕は現場にはない、という板挟みの状況が存在しました。そのため、広く利用可能な一般的なデータを利用した簡略的かつ効果的な方法が求められていました。

本研究の成果

COVID-19が社会に与える影響を測定するためには、致死率を経時的に評価することが有効である適時性と実現可能性を考慮すれば、週単位での致死率の測定が最も効果的であると考えます。

この週単位の致死率を測定した結果、日本では7月以降、陽性者数が増加してもパンデミックにうまく対応していることがわかりました。これは、日本の医療関係者が、医療機器や人材の不足という困難な状況下でも、パンデミックにうまく対応していたことを意味していると考えられます。

本研究の意義

我々がCOVID-19の評価指標として提案する経時的な致死率は、死亡者数を陽性例数で割ることで、非常に簡単に導き出すことができます。この指標は、パンデミックにおけるもっとも過酷な時期においても、世界中でCOVID-19の影響とその対応を測定するのに有用であると考えられます。

コメント

 今回の論文は、主にこの分野での議論を活性化するために執筆しました。疾患についてのデータは蓄積されつつあったものの、各国の対応についての評価は大きく割れており、大手医学雑誌でも議論が尽きないところでした。その一因として、各研究者が異なる指標を用いて評価を行っていることが問題点であると感じていました。そのため「誰しもが活用できる」「シンプルでわかりやすい」指標に用いることができるものがないか検討しました。

 その結果として候補に挙がったのが、致死率を連続的に評価していくことでした。致死率はとても簡単に算出することができ、WHOという信頼できる国際機関が発表しているデータを用いることができるという点で利便性も高いものでした。しかし、そのシンプルさゆえに、実際に現場で活用できるのかという点については議論が必要であろうと考えました。実際、投稿後にレビュアーからもその限界などについてコメントが寄せられました。

 結局のところ、迅速性と信頼性のバランスをどのようにとっていくのかという議論が重要であろうと考えています。より正確性、信頼性の高いデータが欲しい場合には新たにデータを取得したり、複雑な解析を要しますが、それがパンデミックの最も過酷なタイミングでそもそも可能か?という点については疑問が残ります。そのため、やはり我々としては迅速性と簡便さをある程度確保した指標のほうがよいのではないかと考え、本稿を発表するに至りました。

 本件については引き続き議論が必要であると考えており、この論文の発表を機会として様々な意見が寄せられることを期待しています。

タイトルとURLをコピーしました