日本人の脳萎縮の各部位における遺伝寄与率

Saeki S, Szabo H, Tomizawa R, Tarnoki AD, Tarnoki DL, Watanabe Y, Osaka Twin Research Group, Honda C. Lobular Difference in Heritability of Brain Atrophy among Elderly Japanese: A Twin Study. Medicina (Kaunas). 2022 Sep 9;58(9):1250. doi: 10.3390/medicina58091250. PMID: 36143927; PMCID: PMC9505910.

研究成果のポイント

  • 脳萎縮は総体として遺伝寄与率が低く、特に小脳、側頭葉、大脳辺縁系、後頭葉の遺伝率は70%以下であり、環境要因の影響がより強く示唆された
  • 日本人の脳萎縮への遺伝寄与率は低く、環境要因の影響が強いことが示唆された

概要

本研究は日本とハンガリーの国際共同研究であり、他の人種と比較し、日本人は脳萎縮に関して環境要因の影響が大きいことを明らかにしたものです。 脳萎縮は認知機能の低下と関連していますが、東アジア圏では脳萎縮の遺伝性について十分な検討がなされていませんでした。本研究では、コホートに登録された日本人双生児74名の脳MRIを撮像し、画像処理を行うことで、脳の各部位における萎縮度合いを調査しました。MRI画像にて本研究に含まれた対象者の脳容量を各部位に分離し、健常者の平均と比較し、古典的双生児法により脳萎縮の遺伝率を算出しました。その結果、脳萎縮は総体として遺伝寄与率が低く、特に小脳、側頭葉、大脳辺縁系、後頭葉の遺伝率は70%以下であり、環境要因の影響がより強く示唆されました。本結果は、脳萎縮の遺伝率が90%にも上るとされる他の人種と比して日本人には環境要因を調節することで脳萎縮に介入が可能であることを示唆しており、今後は脳萎縮の予防に寄与する環境因子の定量的な同定が望まれます。

背景

COVID-19による過剰な負担に伴い、医療従事者の精神的な負担は極めて過剰なものとなっていました。日本では正式な統計開示が遅れたものの、パンデミックの第一波が訪れた際、イギリスでは医療従事者の精神的な影響に伴う離職がCOVID-19患者のピークの直後に増加したことが示されていました。このような状況は医療従事者の健康を害することはもちろん、持続可能な医療体制の構築を妨げる要因となりうる要因です。しかしながら、日本における議論はあまり行われてきませんでした。

本研究の成果

脳の萎縮は年を経るごとに進行し、認知機能や記憶力の低下と関連することが知られています。日本は世界の中でも最も高齢化が進行している社会であり、高齢化に伴う健康問題は世界全体にとっても大きな関心事であると思われます。従来、脳容積は遺伝性が高いことが知られていますが、その遺伝性は人種や脳の部位によって幅があるとされています。しかし、東アジア圏では脳の各部位に細分化した遺伝寄与率を求める研究はありませんでした。

本研究の意義

我々は環境要因の交絡因子を調整できる双生児研究を用いて、脳萎縮の遺伝率の違いを明らかにしました。大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンターが有するコホートに登録された双生児74名(37組)を対象とし、脳のMRI画像をコンピューター処理することで各部位の体積を算出し、健常者と比較し脳萎縮の程度を求めました。さらに双生児研究法を用いることで脳萎縮に関わる遺伝と環境それぞれの寄与率を算出しました。その結果、脳萎縮に対する遺伝寄与率が部位によって23%から97%であることが判明しました。各部位で比較すると、前頭葉、前頭側頭葉、頭頂葉で高い遺伝率を認めましたが、小脳、側頭葉、大脳辺縁系、後頭葉の遺伝率は70%以下であり、環境要因の影響がより強く示唆されました。これらの数値は他の人種と比較して相対的に低い遺伝率であり、より環境要因の影響を強く受けることが示唆されました。

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